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きちんと読む「連続はてな小説」第1章「ある冬の夜の出来事」

きちんと読む「連続はてな小説」第1章「ある冬の夜の出来事」

それは、ある冬の夜の出来事だった。

仕事を終えたばかりの私は、歩きなれた駅までの道を急いでいた。

息が白い。自然、家への足も速くなる。

するとそこへ真っ白な猫が目に入った。赤い目が印象的だ。

猫はすっと動き出してすっかり人気の無くなった町並みを、早足ですり抜けて行く。

私はおもわず、猫の尻尾に誘われるように後をつけて行った。

ゴミの積まれた狭い裏路地、寂れたシャッター通り

子供時代を思い出しながら歩き、たどり着いたのは一軒の喫茶店(夜はバーも兼ねている様だ)だった。

猫は、にゃあ、とこちらを振り向いて一声鳴いた。どうやら入れということらしい。

カランコロンカラン。

と今時めずらしい、ドアにつけられた鐘が鳴り、私が店に入ったことを店内へ告げた。

店内に、お客は誰もいない。

大きな焦げ茶のカウンターの奥に、巨大な猫が立っていた。

「ね、猫…」

コン。猫は「いつものやつ」を私の前に置いた。

「あ、あの……これ……?」

私が訪ねても、猫はにゃーとも言わず皿を磨いている。

そういえば、私をここに連れて来た猫はどこに行ったのだろう……。

大きな猫はこちらを真っすぐ見つめている。

猫は一つまばたきをすると、おもむろに口を開いた。

「にゃー」「またたびひとつ」

体躯相応の大きな口から覗く牙が裸電球の黄色い光を映す。

猫が、また突然口を開いた。

「もうこの街には慣れましたか?」

「えっ……?」

猫の突然の質問に戸惑ってしまった。

この街にきて1ヶ月。慣れたと言えないこともない。

「…えぇ、まぁ。」

思い切ってこちらからも質問をしてみる。

「あの、どうしてわたしが引っ越して来たばかりだと?」

「にゃあ」「あなたのね、お父様が背後でそうおっしゃってるんですよ」

僕の父親はまだ生きている。なのに、なぜ?

いぶかしみながらふと振り向くと、背後に父が立っていた。

幽霊でもなんでもない、リアルファーザーだった。

「お、お父さん?」

「なんだ、お前もここの常連だったのか?」

父はそういうと、私の隣に腰かけた。

「マスター、いつもの」

猫はおもむろに「豆腐となめこの味噌汁」を差し出した。

その瞬間、さっきまで誰も居ないと思っていた店内に、急に活気が溢れる。

向こう側のテーブルに居るのは、昨年亡くなった祖母に、よく似ていた。

いつの間にか、音楽まで流れ始めている。

そして俺は目を瞠った。

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